機材を貸してくれた先輩の話

3週間くらいビートを作っていなかった。

特に忙しいわけでも時間がないわけでもなく、何かほかに夢中になっていることがあったわけでもなかった。

何となく日々を過ごしていたら3週間が経っていた。


音楽を作り出してから、何も触らなかった時間がこんなに長いのは初めてな気がする。

家で仕事をしながら人のミックスを聞いてすげーなーと思いつつ、イベントが延期や中止になることにも慣れ、普段遊んでいた場所のために何も出来ていないことに気づく。


もしかしたら私は、クラブやライブハウスやそれ以外でも音楽の流れている場所に行って音楽を聞いたり、話すか話さないかは別としてそこに知り合いがいたり、全然知らない人と話したりする日がなくなっても平気なのかもしれない。


音楽は立ち止まったりしながらでも続けられる。それが音楽の良いところだと思う。ただ、1人の時間が長いとそうそう続けられない。SNSでは繋がりの延命はできても代替はできない。そもそもSNS断ちしたくてTwitterは消したんだった。インスタグラムを消せないのは代替できなくても延命させたいと思っているからだ。


ここにきて、「音楽聞くのは自分にとっては不要不急じゃないっすから!」というマインドだけでは乗り切れなくなってきている。いつも感情は状況に遅れてやってくる。


大学生の頃、自分にターンテーブルやスピーカー、レコードを半永久的に貸してくれた先輩がいた。今もその機材は借りている。その人のDJはめちゃくちゃ上手くて、昔は曲も作っていたらしい。当時はなんでただの後輩にこんなええもんずっと貸してくれるんだろうと思っていた。


その先輩の気持ちが少しだけ分かるようになったかもしれない。

制作日誌4(セルフ楽曲解説編)

10/30 1st EP「The Music of Chance」をリリースします!

トラックリスト

1.Searching
2.Pinball
3.Almost Transparent Blue
4.The Box Man
5.Demolition

All songs prod by Jizo inc.

Mastering by KND

つきましては、制作日誌を書いております。

今回はセルフ楽曲解説です。

EPのタイトル含めて、すべて小説や映画から曲名を付けてるので、その辺の解説を。

 

【The Music of Chance】

今回は曲ができてから曲名やEPのタイトルを付けました。

EPタイトル「The Music of Chance」は「偶然の音楽」という小説からとってます。

www.shinchosha.co.jp

制作中に読んだ小説の中で一番印象に残っており、「偶然の音楽」っていう響きもまさに自分の制作に重なる部分があったので、これをEPのタイトルにしました。小説の空気感もどことなくこのEPと似たような雰囲気を感じたので。

自分が曲を作る時に、頭の中に最初からメロディや構成はあることはなく、いつも何かしら手を動かしながら偶然起こったことに引っ張られて曲を作っています。

サンプルを思いつきでリバースさせたり、33回転のレコードを45回転で再生させたり。

この「偶然」が私はとても好きです。そんな偶然が重なり、形になったのが「The Music of Chance」です。

 

【1.Searching】

この曲名は映画「サーチ」からとってます。

bd-dvd.sonypictures.jp

見せ方が面白い映画で見たことない人はぜひ。

タイトルに悩んでいた時、何となく水っぽい曲だよなーと思い、湖が出てくるこの映画を。

この曲がEPの曲では一番しっかり固まって、これができてから一気にイメージや雰囲気が立ち上がってきた感じです

 

【2.Pinball】

これは村上春樹の小説「1973年のピンボールからとっています。

bookclub.kodansha.co.jp

小説の楽しみ方も音楽と同じで何種類もあると思っていて。例えば、ストーリー全体を楽しんだり、ある登場人物に感情移入したり、伏線などの仕掛けに感心したり、たった一文だけが鮮明に記憶に残ったり。

村上春樹は何となくいけすかない感じがして読まず嫌いしてたんですが、家にいる時間が増えたので読んでみました。

読んでみてやっぱりいけすかないけど、とある一文があったので私にとってはとても印象深い作品になりました。

ひたすらにワンループな曲ですが、このワンフレーズを作ったこと、作ることができたことに意味があると思ってます。

 

【3.Almost Transparent Blue】

これは読んだまんま、村上龍の「限りなく透明に近いブルーからです。

bookclub.kodansha.co.jp

この小説の主人公はずっと俯瞰です。どんなに狂ったような状況でも、ずっとただ見ています。

見えるものをそのままただ見てしまうという行為は、とてもピュアで、自分を傷つけることにもなる行為です。

だから、年齢を重ねるにつれて、自分を守るためにも、ある光景を見なくても済むように目をつむったり、逸らしたりすることを覚えていきます。私自身そうしています。

ただ、たまに見えるものを純粋に見る、という行為は痛みを伴うけれども、見た人の中に忘れられない記憶や印象として残るのではないでしょうか。知らんけど。

全然曲解説になってないけど、こんなことをできた曲を聞きながら感じていました。

 

【4.The Box Man】

これはあれです。みんな大好き安部公房の「箱男」からです。

www.shinchosha.co.jp

これは唯一、数年前に読んだ本です。多分10代後半か、20才くらいの時。

この曲は一度ボツになりかけた曲だったんですが、自分の中で気に入っていたので、やっぱり入れることにした、という経緯があります。

この小説からタイトルを引っ張ってきたのは、男性の声が数小節の中にギュッと押し込められているように曲を聞いて感じたからです。

図らずも、主人公が「見る」タイプの作品が続きました。

 

【5.Demolition

最後の曲は、「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」という映画の原題から。

eiga.com

原題は解体という意味の単語なのですが、この方がこの映画のタイトルとして合ってるような気がします。

人は何度も間違うし、おかしなこともする。取り返しのつかないことだってある。

その度に、解体し、再構築して、それでなんとかやっていく。

僕がサンプリングという手法が好きな理由が、この映画を見てなんとなくわかったような気もしました。

晴れやかにも、暗くもならない、最後のこの曲には、この映画のタイトルがいいと思ってつけました。

 

ほとんど、曲の解説になってないかもですが、一旦これにて制作日誌は終了です。

今回出す曲が誰かにとって、印象的な作品の一つになってくれれば、これ以上ない幸せです。よろしくです。

Jizo inc.

制作日誌3(作業編)

10/30 1st EP「The Music of Chance」をリリースします!

トラックリスト

1.Searching
2.Pinball
3.Almost Transparent Blue
4.The Box Man
5.Demolition

All songs prod by Jizo inc.

Mastering by KND

つきましては、制作日誌を書いております。

今回は作業編です。どのように制作したのかなどについて。

曲を聞く前に変なイメージ持ちたくないわ!

という方は、リリースされてからでも読んでくださると嬉しいです。

【6月】

リファレンスとなる曲を集めたプレイリストを繰り返し聞きながら、制作方法を考えたりしていました。

最初はMaschineを使って、気に入ったサンプルをパッドに入れて、曲のBPMだけ決めて、目をつぶりながらとりあえず叩く。みたいな方法でやってみてました。

Prefuse 73とかのインタビューにもろ影響されてます。

www.snrec.jp

7月くらいまでに何曲かできて、それなりにという感じだったんですが、これまで作っていたものとそんなに変わらない雰囲気で、これをEPとして出すのはちゃうやろ、ということで、とても気に入ってた1曲(The Box Man)以外は一旦全部白紙にしました。

【7月】

仕事でやることがあったのを言い訳にEPの曲は全く作ってませんでした。秋頃に出しますというたものの、まだ時間あるしええやろーという意識の低さ。

最初に考えていた制作方法がうまくいかず、どうしたらいいんだろうと悶々とするも、EP関連のことは何もせず。

一方で気分の乗らない時に作っても仕方ないとも思っていたので、気が向いた時にEPに入れないような曲を作ったりしてました。

soundcloud.com

村上春樹も長編を書く気にならない時は、翻訳したり、短編を書いたりしてたらしいので。

【8月】

色々頭で考えていてもEP用の曲は出来るわけもなく、とりあえず今まで一番使ってた環境でベストを尽くすしかないという結論になり、Studio Oneとオーディオサンプルで作るという形に落ち着きました。

サンプルは日々色々探してるので、どこで手に入れたか覚えてないものも多いんですが、Prime loopsはよく使いました。

primeloops.com

NonameのプロデュースもしているCam O'biが出してるこれも最高です。

sellfy.com

今回のEPは全曲サンプルを切り貼りして作りました。プラグインもそんなに持っているわけじゃないので、Studio Oneに元々付いているやつを使ってました。

【9月】

曲がまとまってきたので、ジャケットを撮影してくれた子にイメージを伝え、曲を送りました。

この時はじめて、他人に曲を聞いてもらったので緊張してたのですが、「想像してたより良い」という評価を貰えたので一安心しました。(彼はJizo inc.の数少ない熱心なリスナーの1人でもあります。大感謝です。)

 

そのままKNDさんにマスタリングをお願いして、立ち合いで作業をしてもらいました。

マスタリングという作業にきちんと触れたのは初めてで、こんなにも音が変わるのかと、めちゃくちゃ感動してました。

僕の曖昧な意見にも耳を傾けて、それよりも素晴らしいクオリティで曲を仕上げてくださったKNDさんにも大感謝です。

この2人がいなければ、今回の様に納得のいく形で完成させることはできなかったと思ってます。

 

そのほかにも、相談にのってもらったり、お尻を叩いてもらったり、色んな人に助けてもらいました。

例えばEP制作中です!というツイートにいいねをしてもらえたり、普段あげてる曲聞いてるよーとか、あれ良かったよーと言ってもらえたり、それらの積み重ねのおかげでやれたみたいなとこもあります。

一人で机に向かって作ってた曲をこんな形で世に出せるのは普段曲を聞いてくれている人を含めて、色んな人のおかげです。

ほんとありがとうございます。

 

そんな作品もいよいよ1週間後、

10月30日にリリースされます。

少し肌寒くなってきて、このEPを聞くのにいい季節になってきたと思います。

お楽しみに!!

 

次はセルフ楽曲解説を予定しておりますー

 

(続く)

制作日誌2(コンセプト編)

10/30 1st EP「The Music of Chance」をリリースします!

f:id:jizoinc:20201009203307j:plain

トラックリスト

1.Searching
2.Pinball
3.Almost Transparent Blue
4.The Box Man
5.Demolition

All songs prod by Jizo inc.

Mastering by KND

 

つきましては、制作日誌を書いております。

今回はコンセプト編です。どんなコンセプトで作品を作ろうと思ったか等について。

曲を聞く前に変なイメージ持ちたくないわ!

という方は、リリースされてからでも読んでくださると嬉しいです。

 

【リファレンス集め】
さて、作品を作る!なんて言ったものの、まとまった形でリリースをしたこともなく、

普段は曲ができたら即インターネットに放り投げる手法だったので、何をどうしていいか分からず途方にくれました。

この辺にも、自分の素人感というか、アマチュア性みたいなのが出ていると思う。

このままではにっちもさっちもいかないと思ったので、こんな雰囲気の作品できたらいいなーというリファレンスを集めることに。

こちらが、「The Music of Chance」のリファレンスです。

 

【コンセプト】

サンプリングを基本として曲を作っている自分としては、どこまでいっても借り物、他人の褌で相撲を取っているような気持ちだったので、今回は、完全ロイヤリティーフリーのサンプルのみを使って、自分の好きな世界観を描けたらいいなと考えました。

あと、作品を通して聞いた人の中で情景が立ち上がるようなものにしたいなとも。

 

コンセプトとしては「ダブルスタンダード」という言葉が中心にあります。元々はこれをタイトルにしようとも思っていました。(あまりに露骨なのでやめました。)

ともすれば、否定的に捉えられる「ダブルスタンダード」という言葉。最近では、ネット上で、鬼の首を取ったかのように「はい!ダブスタ!」なんてことも言われるのを目にします。

でも、自分はそんなに一つのスタンダードを貫けるような人間ではないなと。

考え方は変わるし、趣味嗜好にも一貫性はない、音楽は好きだけど、クラブはそこまで得意じゃない。そもそも音楽を作りながら、そこに属するだけで保守的だと思われても仕方ないようなところで日々仕事をしている。

ある人を支持したら、その人の全てを支持しなくてはならないような。そんな雰囲気。

でも、そんな0か100かで語れることは少ないと思っていまして。

そもそも、表面的に語られる矛盾やダブルスタンダード性や発言以上に、なぜその人がそのように考えるのかという価値観の方にこそ意味があるのではないかと思うわけです。

それぞれの価値観をつき合わした時に立ち上がってくる、70や80の解にこそ、面白みや可能性があるんじゃないかなと。

こんなことを考えながら、自分の中途半端性に折り合いをつけてました。

 

色んな面で中途半端な自分やもしかしたらあなたの姿を、そのままでもいいんじゃないかと、そんな風に肯定できるような作品にしたいなという気持ちが作っていく中で徐々に出てきました。

 

実際の制作方法などについても書こうと思いましたが、

長くなりそうなので、次回にしようと思います。

 

(続く)

 

 

 

制作日誌1(きっかけ編)

10月30日にJizo inc. 1st EP「The Music of Chance」をリリースします!

この制作日誌では、自分が何から影響を受けて、

どんな風に作ったのか等を書いていけたらと思ってます。

今回はなぜEPを作ろうと思ったのか、何がきっかけだったのかみたいなことを。

 

【3月】

Track Cruising リリースパーティー

trackcruising.bandcamp.com

trackcruising.bandcamp.com

最高のパーティー

自分は楽曲を送るというだけの参加だったので、運営の方を筆頭に、トラクル各位には大感謝でした。割と孤独な作業に分類されるであろうDTMやそれぞれの作品、人柄を通じて、繋がることができるってええことやなと月並みですが思いました。

ただ個人的には、どの出演者もきちんと「自分の」音楽をやっている中、人様の曲を雑に切り刻み、曲のようなものを作っている自分のダサさ、スタンス、そもそもの楽曲クオリティ等、とにかく自分はダサいなとも。

ラクル各位の活躍をSNSを通じて目にするのは、嬉しく誇らしくもあり、一方で自分の卑屈具合に拍車をかけたりもして。

それ以降、何を作っても全然楽しくない時期があり、私生活や仕事が割と充実していたことも重なり、このまま音楽作るのやめたりしてもいいなーと思っていました。

 

【5月】

信頼できるラッパーでクリエイターのOleくんから「EP出るよ!」と連絡。

Oleくんに曲を提供するのは、本当に毎回楽しく、今回のEP「Melt Life」もさすがやなーと思う作品でした。

linkco.re

www.youtube.com

この時期は、本や映画などから刺激を受けることが多かったです。(影響を受けた作品はまたまとめて紹介します。)

あまり音楽は聞いていなかったけど、SOFTという京都のバンドのデジタルリリースされた作品(作品自体は2018年のもの)にかなり食らいました。

soft-jp.bandcamp.com

京都で25年続くバンド。ほぼ自分と同い年。表現と誠実に向き合い、着実に積み重ねることの凄みを感じました。

自分もOleくんやSOFTのように誠実に音楽を作ろうと思い、とりあえずツイッターで宣言。

この時はまだコンセプトも何もなく、とりあえずやる!と決めただけでした。とりあえず、引くに引けない状況を作るか!みたいな感じです。

自分としては、誠実に一つの作品を納得の行く形でリリースすることに挑戦してみよう。という気持ちで今回のEPを作りはじめました。

(続く)